【図解:出口戦略】老後も資産は現金化せず、投資を続けるべき2つの理由
「リタイア後に投資をすることで、2つの大きなメリットが生まれます。」
投資において、いつ、どのくらいの額を現金化するか、といった出口戦略は頭を悩ませる要素の一つです。
また、リタイア後という状況で、退職金などのまとまった資金を投資に回すかどうかも、慎重な判断が必要です。
通説として、老後はリスク資産への投資はやめて、債券やあるいは預金といった低リスク資産を保有する方が良いという記事をよく見かけます。
しかしながら、この考えには2つの大きなリスクがあり、結果的に老後に資金不足に陥ってしまう危険性があります。
今回はリタイアした後であっても、資産運用を継続すべき理由について、図を踏まえながら紹介いたします。
目次
老後もリスク資産による運用を続けるべき2つの理由
リタイアした後でも資産運用を続けることにより、「インフレ対策」と「切り崩し可能期間の延長」が可能になります。
理由1:インフレ対策
日本をはじめ多くの先進国ではインフレ率2%を目標としています。
インフレ率2%というのは、モノの値段が一年で2%上昇すること意味しており、その分現金の価値が減少することを意味します。
下の表では、インフレ率を2%としたときに、一万円を持っていた時に100円のものがいくつ買えるのか調べた結果です。
年 |
現金 [円] |
価格 [円] |
購入数量 [個] |
0 | 10000 | 100 | 100 |
1 | 10000 | 102 | 98.0 |
2 | 10000 | 104.0 | 96.1 |
3 | 10000 | 106.1 | 94.2 |
4 | 10000 | 108.2 | 92.4 |
5 | 10000 | 110.4 | 90.6 |
0年目の時は当然100個購入が可能ですが、年がたつにつれて値段は上昇し、5年後では約90個しか買えなくなっています。
つまりインフレの進行により、5年間で現金の価値は約10%低下してしまうことを意味します。
より長期で見たものが下の結果です。
年 |
現金 [円] |
価格 [円] |
購入数量 [個] |
0 | 10000 | 100 | 100 |
10 | 10000 | 121.9 | 82.0 |
20 | 10000 | 148.6 | 67.3 |
30 | 10000 | 181.1 | 55.2 |
インフレによる価格上昇は指数的に上昇するため、経過年数が30年となると、物価上昇は+80%を超えるために、現金の価値は約45%減少します。
以上の結果から、インフレが進む中で現金を保有することは大きなリスクであると言えます。
株式や不動産などの資産は企業や土地などのモノを保有します。
そのため、インフレによる物価上昇の中で、これらの資産を保有することにより、インフレに連動した価格上昇が見込め、現金価値の低下を免れることができます。
そのため、私はリタイアした後であっても現金ではなく、株式・リートといった実物資産への投資を行うことが理想であると考えます。
また、株式よりも低リスク低リターンである債券の中には、インフレに連動して価値が変化する債券(インフレ連動債)もあります。
株式ほどのリスクを取りたくないのであれば、このような債券の活用も悪くはないかもしれません。
※一方で現在の日本はインフレ率は目標に達しておらず、上でのシミュレーションほど深刻な現金価値の低下は起こらない可能性は高いです。
ただ、長期の経済動向・政治動向は予測ができないため、インフレにより現金価値が低下するリスクがあるという事実は、しっかり認識しておく必要があります。
理由2:切り崩し可能期間の延長
実は老後であっても資産運用を続けることで、資産の切り崩しが可能な期間を延ばすことができます。
これは、資産運用により得られるリターンにより、保有資産が増加するために、その分、取り出せる額が増加するためです。
実際の検証データを示しながら、資産運用による切り崩し可能期間の延長についてみていきましょう。
期待リターンごとの切り崩し可能期間
60歳でリタイアした後、資産を切り崩していく様子を見ていきましょう。
下の図では、60歳の時点で資金3000万円を保有しており、毎年250万円(約20.8万円/月)を切り崩していく様子を見ています。
ブルーの線は貯金(利回り0)から切り崩していく様子を見ている一方で、オレンジ・グレー・イエローの線はそれぞれ年利2・5・7%の資産から、切り崩していく様子を見ています。
見ていただくと、貯金から切り崩していく場合には、12年後の72歳時点で全額が切りくずされてしまいます。
一方で、リターンが見込める資産に投資をした場合には、切り崩しが終了するタイミングはそれぞれ下記の通りになります。
貯金:72歳
年利2%:74歳
年利5%:79歳
年利7%:88歳
このように、資産運用を行うことにより、長期で資産の切り崩しが可能になることがお判りいただけます。
また下記の通り、切り崩し期間の延長効果は高利回り資産に投資をすることで、大きく上昇することには、注目する必要があります。
・貯金から年利2%の資産に切り替える際には2歳延長可能
・貯金から年利7%の資産に切り替える際には16歳延長可能
上の例では、年利上昇が3.5倍に対して、延長期間は8倍に増加します。
これは複利の効果をより強く受けるためであり、高利回りの資産に投資をすることで、より長期で切り崩しが可能になります。
次に年利10%の資産に投資をした際の資産推移についてみていきましょう。
年利10%になると、資産の切り崩し額よりも投資リターンが高くなるために、資産は減少せずに、むしろ増加します。
このようにハイリターンが見込める資産(株・不動産など)に投資をすることにより、資産の現金化を行いながら、保有資産を増やすことも可能になります。
つまり、切り崩し額、期待リターン、元本の大きさによっては永遠に資金に困らない生活も可能になります。
次に60歳時点での元本の違いが切り崩し期間にどのような影響を与えるのか、検討を行います。
リタイア時の元本サイズごとの切り崩し可能期間
60歳時点の元本のサイズを1000万・3000万・5000万・7000万円として、毎年250万円を現金化した時に何年間資産の切り崩しができるのか、検討を行いました。
ここでは期待利回りは5%で統一しております。
切り崩しが終了する年齢を検証した結果は下記の通りです。
元本1000万円:65歳
元本3000万円:79歳
元本5000万円:無限(資産減少なし)
元本7000万円:無限(資産増加)
ここで注目すべきは、元本1000万円の場合は切り崩し可能期間は5年である一方で、元本3000万円の場合、切り崩し可能期間は19年に延長できる点です。
つまり、3倍の資金を用意することにより、切り崩し可能期間は約4倍になります。
これは先ほどと同様に、多くの資金を用意しておくことにより、複利の効果を大きく受けることができるためです。
同じリターンの資産に投資をしても、元本が多ければ多いほど、切り崩し可能期間が指数的に増加することは知っておく必要があります。
そして元本を十分に用意しておけば、リスクの高いハイリターン資産を選ばなくても、老後の資金に困ることがないことを本結果は示しています。
以上から、老後資金に困らないための運用としては下記の2点がポイントとなります。
・ある程度高いリターンが見込める資産に投資をする。
・十分な額の元本を定年までに用意しておく。
ここまでは投資リターンに着目して検討を行ってきましたが、投資を考えるうえで無視できないのが、リスクの側面です。
最後に老後でも資産運用を行っても本当に大丈夫なのか、リスクの側面を見ていきます。
老後にリスク資産に投資をしても問題がない理由
投資リスクを考えるうえで大切なのは、どれくらいの期間運用をするかという点です。
下の図はS&P500指数(1950年~2017年)の運用期間ごとのパフォーマンス幅を示したものです。
※データは『ウォール街のランダムウォーカー』から引用しています。
投資期間が一年の場合、良いタイミングで投資をすれば、一年で52.6%のリターンが得られる一方で、最悪のタイミングで投資をすると、-37%の損失が起こります。(平均すると一年投資の場合のリターンは11%前後となります。)
図から分かることとして、長期運用することにより、リターンのバラツキは小さくなることです。
もしも20年投資をするのであれば、最悪の年に投資を始めても年利6.5%のリターンを得ることができます。
老後の資金として、60歳からの運用を考えるとき、日本の平均寿命は男性82歳、女性88歳なので、寿命までの運用期間を考えると20年以上を運用することが可能です。
そのため、60歳からの運用であっても、ある程度安定した長期投資リターンを見込むことができると言えます。
※運用期間と投資リスク・リターンの関係については下記記事でも紹介しております。
もちろん、いくら長期投資と言っても、最初の年で老後資金が37%減少するのは耐えられないと思います。
そのため、下記の3点を実行することにより、リスク低減を意識することが大切であると言えます。
①株式と値動きが完全には相関しないREIT(不動産)への投資
②ローリスク資産である債券も含めたポートフォリオの構築
③日本や米国など、特定の国に限定しない国際分散投資
まとめ
本記事では初めに、老後資金を現金で保有することにより、資産価値が減少してしまう、インフレリスクについて紹介いたしました。
また、老後であってもすぐに資産を現金化せずに、資産運用を行うことにより、長期で資産の切り崩しが可能になることを紹介いたしました。
今回紹介した、老後の資産運用において大切な点を再掲いたします。
①ある程度のリターンが見込める資産に投資をすること
②リタイア時点で、可能な限り多くの資金を用意しておくこと
リタイア後に高すぎるリスクをとるのはあまり好ましくないため、理想としては、若いうちから②の方針を視野に入れた資産運用を行っていくことが望ましいです。
老後というと、私を含め、まだ先に思える方も多いかとは思いますが、退職金などのまとまった資金も含め、早め早めに資産を用意しておくことにより、豊かでローリスクで余生が満喫できます。
個人のリスク許容度と相談しながら、計画的な運用戦略をご検討いただければ幸いです。
本記事が皆さまの資産運用のお役に立てれば嬉しく思います。
※参考記事
長期投資のための銘柄選定のポイント
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