【アノマリーは嘘】米国株で統計的に検証、月別の株価変動に一貫性はないことの根拠
「アノマリーは本当に根拠があるのか?」
「〇月は上がりやすく、△月は下がりやすいといった傾向は信用できるのか?」
「アノマリーについて、バラツキを加味して、統計的な検定を行ってほしい」
皆さま、お疲れ様です!ぴの(ぴの 【公式】@インデックス怪獣 (@indexpino) | Twitter)です🐤
投資の世界にはジンクスがある。
・12月は「クリスマスラリー」で株価が上がりやすく
・夏場はみんながバカンスに行くから「夏枯れ相場」になり、株価は下がりやすい。
・だから「セルインメイ」、5月のうちに利益確定をすべきだ。
このような月ごとの株価変動の傾向(投資のアノマリー)をネットで目にすることが多いです。
ここで直感的に感じるのは、
「クリスマス?、バカンス?、そんな理由で株価変動、つまりその企業の価値が変わるわけがない!」
という点ではないでしょうか。
今回は過去27年間のS&P500の月別価格変動を調査することにより、アノマリーが信じるに足るものなのか、検証を行いました。
アノマリーを支持する方の多くは、単純な月ごとの平均値の比較を行っているものが多いですが、正確に比較をするためには、どれくらいのバラツキがあるのかを考慮することが不可欠です。
つまり、各月の株価変動の傾向が、そのバラツキの程度を超えるほどしっかりとした差なのかどうか、検証する必要があります。
そこで、本記事では月ごとの平均変動率に加えて、下記3点の検証を行いました。
①27年分の価格変動全てのプロット
②標準偏差(バラツキ)の程度の算出
③統計的に有意なものか総当たり検定
検証の結果、アノマリーを支持する根拠はないという結論を得ました。
目次
- S&P500を用いて検証を実施
- 過去27年の月別の価格変動率
- 月別の平均価格変動率
- 月別の価格変動率の総プロット
- 月別の平均価格変動率:バラツキの程度を可視化
- 月別の価格変動傾向の統計的検定
- アノマリーについての解釈
- まとめ
S&P500を用いて検証を実施
今回はデータアクセスの利便性から、最も歴史のあるETFであるSPYの価格変動率から検証を行っていきます。
SPYはS&P500を対象指数とするETFであるために、アノマリー検証の上で妥当なものであると判断いたしました。
SPYは1993年1月末に上場したETFであり、2021年5月現在も存在するETFです。そのため、フルで比較ができるように、1994年から2020年までの27年間の値を用いて検証を行っていきます。
SPYの価格推移
※価格変動率で示した理由
価格変動差で算出する場合は、値上がりするほど大きくなる傾向があり、直近の価格変化の影響を強く受けるリスクがあります。
そのため、割合形式の価格変動率で算出を行っています。
過去27年の月別の価格変動率
1994年から2020年にかけての月別価格変動率を下の図で示しています。
上の表では、各要素に対して価格変動率(%)を示しています。
紫で示している年月ではプラスの価格変化が起きたことを示しており、赤で示している年月ではマイナスの価格変化が起きたことを示しています。
グラフから見て取れる要素は下記の通りです。
・ITバブルの崩壊が起こった2001年から2002年の間は全体的に下落傾向があることが確認できます。
・リーマンショックの下落は2008年の6月くらいから起こり、2009年の2月までずるずると下落が続き、その後、3月4月はリバウンドで大きく上昇しました。
・例えばコロナショックが起きた2020年を見てみますと、3月に大きく暴落をした後で、4月には大きくリバウンドで上昇したことがお判りいただけます。
次に各月ごとの平均価格変動率を示していきます。
月別の平均価格変動率
この表の値を用いて、月ごとの平均価格変動率の平均値を示したものを下の図で示しています。
見ていただくと、4月には大きく上昇する傾向があり、夏場にはあまり上昇が見込めません。そして、秋は価格が上昇していく傾向が見れます。
一見するとこのデータから月ごとの価格変動の特徴があるように見れますが、そう結論づけるにはまだ早いです。
それは統計では絶対に無視できない、データのバラツキの程度を無視してしまっているためです。
いくら4月に上昇すると言っても、それが偶然1回だけ起きた大きな上昇に引っ張られたものである場合には、4月は平均的に株価上昇が起こりやすいといった結論を得ることはできません。
そこで、冒頭に示した表の値から、月ごとの価格変動率を総プロットしてみましょう。
月別の価格変動率の総プロット
実際にPythonを用いてSwarmプロットしたものが下の図になります。
この図では、1月から12月までの各月において、年ごとの価格変動率をプロットしています。
つまり、各点は〇年△月のデータとなっており、1月のエリアにプロットされている27個の点は1994年から2020年までの各年を示しております。
・3月に大きく暴落したのは2020年の年でコロナショックによるもので、4月に大きく上昇したのは2020年のコロナショックからのリバウンドによるものです。
・10月に大きく暴落した年は2008年で、これはリーマンショックによるものであると言えます。
・全体の傾向としては、価格変動率は0をわずかに上回るエリアに密集しており、月ごとに一貫した傾向があるようには思えません。
このように実際にプロットしてみると、全体の傾向は変わらない一方で、大きく値上がり・値下がりした年の影響が顕著に出てしまっている可能性が考えられます。
この外れ値の影響を受けて、「4月は上昇する」といった主張がなされている可能性が考えられます。
実際に先ほどの棒グラフにバラツキの程度を表すエラーバーを示してみましょう。
月別の平均価格変動率:バラツキの程度を可視化
先ほどのグラフに標準偏差(エラーバー)を付けたものが下の図になります。
最初に示した図では、4月は大きく上昇する傾向が見えていました。
一方で、この図を見てみると、そのような各月ごとの平均の差はバラツキの中に収まってしまっていることがお判りいただけます。
これは各月ごとに、値動きに一貫性がないことを示しています。
最後に、各月ごとに価格変動率に差があるのかについて、実際に統計的な検定を行っていきます。
月別の価格変動傾向の統計的検定
各月ごとの価格変動の傾向が、統計的に意味のある差なのか、検定を行いました。
検定では、1月対2月、5月対8月といった形式で総当たり検証を行っております。
本検定は多重比較の検定となりますので、最も一般的なTukey-Kramerの検定をPythonで実行しました。
表の各値はp値を示しており、この値は0.05を下回るときに、統計的に意味のある差(有意差)があると判断できます。
・上の図から、例えば1月と2月で比較をした場合のp値は0.9となり、0.05を超えているために、統計的には1月は2月よりも上昇しやすい・下落しやすいといった結論は導き出せません。
・同様に見てみますと、p値が最も低いの4月と9月の比較のケースで、それでも0.29という値であり、統計的には有意な差ではないと言えます。
以上から、月別の総当たり比較で統計的な検定の結果、各月間では有意な差は認めらなかったという結論を得ることができます。
つまり、「〇月は△月よりも上がりやすい、下がりやすいといった傾向がある」といった結論は導きだせなかったと言えます。
アノマリーについての解釈
今回27年間のS&P500の価格推移を用いて検証を行った結果、アノマリーを支持する根拠は得ることができませんでした。
過去のデータを見た時、大きな価格変動が起こるのは、コロナショック、リーマンショック、ITバブルといった歴史的な暴落・暴騰が起こるときです。
「上昇する月、下落する月がある」というのは、これらの偶然に起きた出来事が平均値に大きな影響を与えてしまっていただけである可能性が考えられます。
4月に上昇しているように見えたのは、4月は偶然リーマンショック・コロナショックの暴落の影響を受けず、むしろそこからの回復の恩恵を大きく受けただけなのではないのかと著者は解釈します。
これらの偶然の値動きが原因だからこそ、統計的に検定を行うと意味のない差であると判断されたのではないのでしょうか。
以上から、過去のデータを見た時に、「4月は上がる、夏場は上がる、だから5月に売っておくべきだ」といったアノマリーに基づいた主張を根拠とした資産運用は避けるべきであると言えます。
まとめ
今回は「〇月は株価が上昇しやすく、△月は株価が下落しやすい」といった株価変動に関するアノマリーについて、統計的に検定を行いました。
アノマリーを支持するグラフをネット上には多く見かけますが、それらのほとんどにおいて、バラツキが完全に無視された形の議論が行われています。
実際にバラツキを考慮して統計的処理を行った結果、「〇月と比較をして、△月は株価が上昇しやすい/下落しやすい」という意見は支持できない主張であることが分かりました。
以上から、私はアノマリーは完全に無視した運用を行っていきます。
冷静に考えれば、株価(企業価値)にお盆休みもクリスマスもありません。
根拠の乏しい主張に基づいた運用には大きなリスクを孕みます。
ネットの情報には有用なものもありますが、その根拠が乏しいものもないとは言えません。そのため、懐疑的に情報を取捨選択していく必要があると言えます。
本記事が皆さまの良い資産運用に繋がれば幸いです。
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